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2008年2月20日 (水)

ある意味,患者側からの言い分 - 【書評】「痴呆老人」は何を見ているか

正直,期待していた内容とは全然違っていたのだけど,こういう視点もあるのだなと一応心に留めておこうと思った。

「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書 248) Book 「痴呆老人」は何を見ているか (新潮新書 248)

著者:大井 玄
販売元:新潮社
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ちなみに目次は以下のとおり。
大雑把な感想ではあるが,認知症の発症機序や予防法,患者の側からの言い分等を詳説したものではなく,痴呆を軸として筆者の心の赴くままに,ブッシュ政権から日本人論に至るまでの様々な観念論を披瀝した本であった。

はじめに
第一章 わたしと認知症
なぜ怖がられるのか/ぼけと「痴呆」/佐久平での宅診/急性抑うつ反応/「申し訳なさ」と癒し/精神症状と人間関係
第二章 「痴呆」と文化差
異質なものへのラベル/沖縄の「純粋痴呆」/世間的イメージの誤解/「一水四見」という文化差/「生かされる」と「生かされている」だけ/アメリカ人にとっての自立性喪失
第三章 コミュニケーションという方法論
ゲラダヒヒの平和社会/偽会話となじみの仲間/「理解する」は大事ではない/笑顔はなぜ大切か/ブッシュ大統領の「痴呆老人」的反応/個人史をたずねる/体の位置と敬語/相手の世界へのパスワード
第四章 環境と認識をめぐって
彼らの原則/環境と環境世界/見ているもの、ではなく、見たいもの/コトバで世界を形成している/最小苦痛の原則/「思いこみ」を支える深層意識/思いが生む虚構現実/現実を構成する経験/現実は「事物」でなく「意味」/外向きの世界仮構
第五章 「私」とは何か
二つの「私」/《Me》と「Mine」/《私》と目先の利益/がん患者と無常の自覚/「私」を統合する/自己とは記憶である/「つながり」への情動/『蜘蛛の糸』の不安/ほどけていく「私」
第六章 「私」の人格
相手の数だけ人格がある/『24人のビリー・ミリガン』/社会病理を映す多重人格/生きるための言語ゲーム/若返り現象/住みやすい過去へ/暴流のようなエネルギー/「いのちが私をしている」/実体的自我は存在しない
第七章 現代の社会と生存戦略
生命と年齢の関数/長く伸びたグレイゾーン/上手なつながり/「病気」の増殖/苦痛を病気化してしまう /自由と不安/言語習得の心理ステップ/日本特有のひきこもり/失神するほどの無力感/自分vs.世界/自立とつながりの自己/甘える理由/生存戦略の大 転換のなかで/キレる理由/自立社会の呻き声
最終章 日本人の「私」
つながりの心性/班田収授の精神/江戸の循環型社会/強権と個人的自由/心と私心/「自己卑下」と先祖の智恵
参考文献・註記

おわりに

そして,帯に書かれたフレーズがこの本の方向性を良くも悪くも決定づけている。

われわれは皆,程度の異なる「痴呆」である。

この本の筆者が今日使われている「認知症」という言葉に違和感を感じ,差別意識を隠蔽するものだと非難する理由は理解できるが,人間の精神的機能を完全に失うものとして捉え,あらゆる痴呆症状をひっくるめていきなり同一のものとしてとらえてしまうのはやはり違和感を感じる。
これはこれで,痴呆の恐怖を間近に感じる世代の感覚としては妥当なものかもしれないが,現実に私が介護保険の申請受付の窓口において目の当たりにしている認知症患者は,今まさに適切な診断と処置を提供することで症状の進行が阻止できるか,あるいは重度化するかの瀬戸際にいる人々であって,筆者が言うように,直ちに延命措置を拒否して白旗をあげるような絶望的な状況に至るまでにはまだ早いのではないか。
東大医学部教授の先生に向かってこういう言い方をするのも何だが,今まさに認知症のフロントラインにいる人々にとっては全く役に立たない(そもそも役立てようという目的で書かれた本ではたぶんない)話の数々であることだけは断言していいと思う。

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